触らないほうがいい、と思うことがあります。
今回ご相談くださったのは、これまでに三十件以上のリフォームや修理をお任せくださっているお客様。長いお付き合いの中で、この方の「好き」の輪郭は、私の中にもはっきりと像を結んでいます。
左右対称は、選ばれない。
人と被るものも、選ばれない。
お持ち込みいただいたのは、二本のリングでした。

一本は、ミステリーセッティングのルビーリング。爪を見せずに石を組み上げる技法で、四弁の花が咲いています。中心には、やわらかな色みのイエローダイヤモンドがひと粒。
「なんだか可愛らしすぎて、使っていないの」
もう一本は、最近お求めになったというピンクダイヤモンドのリング。中央のクッションカットを、細かなメレダイヤが放射状に取り囲んでいます。
「買ったものの、やっぱりデザインが少し好みじゃなくて」
この二本を、一本にまとめたい。デザインはお任せで、とのことでした。
まず決めたのは、崩さないこと。
ミステリーセッティングは、デザインを決めてからルビーを一石ずつ削り出し、寸分の狂いなく組み上げていく技術です。すでに完成しているものを解体するのは、技術的にも、この一本が積み上げてきた時間に対しても、簡単なことではありません。
このルビーリングは、アームも、中心のイエローダイヤも、すべてこのまま。
そのことをご説明し、ご納得いただいたところから、今回の設計は始まりました。
けれど、そのままでは使われないのです。四方に開いた花は、あまりにも整っている。この方の指には、少しだけ端正すぎる。
崩さずに、崩す。
ピンクダイヤモンドのリングからは、中央の一粒だけをいただきました。周りのメレダイヤは、この方が普段身につけるには繊細すぎたからです。
ここで、ひとつお願いをしました。
「もう少し粒の大きいダイヤモンドを、お持ちではないですか」
これまで何度もご一緒してきた中で、この方がダイヤモンドのルースをお持ちだったことを覚えていたのです。後日、実際に何粒か持ってきてくださいました。
置いたのは、花の左上と、右下。
大きさを変えた石を、飛び石のように連ねていきます。等間隔にはしない。まっすぐにも並べない。花からこぼれ落ちるように、あるいは花へ向かって集まってくるように。
石と石の間には、あえて空間を残しました。中央が緻密に詰まった造形だからこそ、その外側には空気を含ませたい。
そして右下の流れの先端に、ピンクダイヤモンドをひと粒。クッションカットだったので、あえて菱形に向きを変えて据えました。

対称の花に、非対称の軌跡を添える。
そうすることで、整っていたはずの花が、動き出します。
華やかさは残しながら、可愛くなりすぎないように。全体を石で埋めるのではなく、ポイントだけに。普段づかいのリングとして、指の上で軽やかであるように。

お渡ししたとき、お客様はふふふと笑って、こうおっしゃいました。
このリングが私の指に馴染むわ。これなら楽しんで、好きなときにつけられる。今の自分に合っている。

元のデザインを大きく変えられるものと、変えないほうがいいものがあります。
変えられない、のではありません。すでに完成しているのです。けれど、そのままでは今のご本人に使っていただけない。その絶妙な隙間を見極めて、どこに、どれだけ手を添えるか。
三十回お預かりしてきたからこそ見える答えが、あります。
ルビー、ピンクダイヤモンドリング リフォーム
アイテム:リング
素材:K18WG
宝石:ルビー、ピンクダイヤモンド、ダイヤモンド(全てお持ち込み)
制作期間:2ヶ月
デザイン:大森香菜江
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