ショーケースの前で、少しだけ声のトーンが上がった。
「これで私のエメラルド、似合いますか?」
指差してくださったのは、440 Basic - Loaf リング。シュガーローフカットの宝石から着想を得た、ローフが連なるデザイン。シンプルなのに、一つひとつの面取りに手間がかかっている作品です。
お持ちいただいたのは、プラチナ枠にセットされたエメラルドのリング。祖父から祖母へ贈られ、そのあと譲り受けたものだと伺いました。ずっと大切にしまってあって、実際に身につける機会は、あまりなかったそうです。

エメラルドのリングって、どこか"ザ・ジュエリー"という印象になりやすい。特別な日にしまっておくのではなく、日常の中でふと袖から覗くような一本にしたい。
Loaf リングを見つめながら、ぽつりとこぼれた言葉が、今回のはじまりでした。
デザインを考えるとき、まず向き合ったのは石そのもの。図面の上だけで完結させることはしません。実際の石を手元に置き、光にかざしながら、どの角度でいちばん美しく見えるかを確かめていく。
「トゲトゲ感はもっと迫力があり、石に合わせて」
そう伺ったイメージをもとに、長方形のローフを縦の流れに沿わせて連ねていきました。とがりの角度、大きさのバランス、一つひとつの向き。0.1ミリ単位の調整を重ねながら、石の存在感を邪魔しない、けれど負けない強さを探っていく作業でした。既存のLoaf リングよりもボリューム満点です。石の存在感に負けない迫力を、と考えた結果です。


つけ心地にも、時間をかけました。指の腹側にあたる部分は、少しずつ厚みを落としていく。見た目の強さと、指にのせたときの軽やかさ。そのバランスを、何度も指先で確かめながら整えていきました。
そしてもうひとつ、譲れなかったことがあります。
もとのリングの内側に刻まれていた刻印。かたちを大きく変えるからこそ、変えてはいけないものがある。同じ位置に、同じ言葉を、そっと打ち直しました。石のデザインが新しくなっても、その内側には、これまでと変わらず、祖父母の存在があってほしい。そう思っていました。

完成した作品を手にとっていただいたとき、しばらく無言で眺めていらっしゃいました。それから、内側の刻印にそっと指を添えて。
「かたちは変わったのに、ちゃんと同じ石だってわかる」
そんなふうに感じていただけたのだとしたら、これほど嬉しいことはありません。
このリフォームで変わらなかったのは、石だけではないのだと思います。祖父から祖母へ、祖母からお客様へ。かたちを変えても、その繋がりは途切れることなく、これからも指の上で続いていく。
「形が変わっても、祖父と祖母を側に感じられるようになった」
そう言っていただけたことが、何よりの答えでした。石そのものよりも、その石が繋いできた人と人との時間。それを未来へ受け渡すお手伝いができたのだとしたら、これほど光栄なことはありません。
一つのリフォームには、いくつもの小さな選択が積み重なっています。その一つひとつに、理由があります。石と向き合う時間を惜しまないこと。そして、その石が背負ってきた物語に、敬意を払うこと。それが、大切なものを預けていただくということへの、私なりの向き合い方です。
エメラルドリングのリフォーム
アイテム:リング
素材:K18YG
宝石:エメラルド0.94ct
費用:451,000円(税込)
制作期間:約2ヶ月
デザイン:大森香菜江
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